2023-10-21

金融翻訳のこつ 適格合併 No.7

Kei Narujima から移行しました。

本シリーズの目的は、専門的な会計税務の日本語文章を「正確に訳すためのこつやプロセス(リサーチの仕方、単語の選び方等)」を「文書化」し、多くの方とシェアすることです。私は長年、金融翻訳、特に会計税務の翻訳に携わってきました。米国公認会計士(US CPA)試験の全科目に合格しています。ただ、実務には携わってはおりません。また帰国子女でもなく、留学の経験もありません。

初回(第1回)から国税庁の事前照会「英国子会社がオランダ法人と行う合併の取扱いについて」を翻訳しています。
今日は7回目です。


日本語原文

ロ 合併が行われた場合のみなし配当の金額について
法人株主等である内国法人が合併により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額はみなし配当の金額とされます。ただし、適格合併の場合にはみなし配当の金額は生じないこととされています(法人税法第24条第1項第1号)。

Sample translation

B.  A deemed dividend in a merger
If a Japanese company receives cash or any other asset in a merger and the cash and/or asset distribution exceeds an amount proportional to its holding of Capital, etc.,* in the distributing company, the excess amount is deemed as a dividend. However, this does not apply in a qualified merger (CTL 24(1)(i)).
"Capital, etc.," is the sum of share capital and capital surplus adjusted for tax purposes.  

(1) 法人

法人や会社を「corporation」とするか「company」にするかで時々もめることがあります。米国人は「corporation」、英国人(以前植民地だった地域を含む)は「company」を好む傾向はありますがどちらでも構いません。

ただ、米国の「C corporation」、「S corporation」などには特別な意味がありますので混同しないようにしましょう。注記なしに corporation、company と使えば、日本でいうところの「会社」、「法人」、「企業」という意味にとってくれます。 

(2) 株主

英語に「株主」を表す言葉は使いませんでした。後段の「its holding of Capital, etc.,* in the distributing company」で、「資本を持っている」つまり「株主である」ことが分かると思ったからです。

他にも訳し方はいろいろあると思いますが、「字数が一番少ない英文」にすることを心掛けており、このような英文になりました。

(3) みなし配当 その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超える金額

そもそもの日本語が分かりません。US CPAの勉強を始めるまで私も分かりませんでした。みなし配当の定義はざっくりいうと以下のようになります。

みなし配当 = 交付金銭等の額 - 1株あたりの資本金等の額 × 所有株式数
※1株あたりの資本金等の額 = (資本金+資本剰余金) / 発行済株式総数

つまり、

その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額 = 交付金銭等の額 
当該法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額 
= 1株あたりの資本金等の額 × 所有株式数
= 株式保有割合に応じた資本金等の額(資本金+資本剰余金)の持分 

となります。ものすごく単純化しますと、

あなたがA社(資本金等の額100万円;発行済株式総数100株)の株式を20株保有していて、A社が130万円の配当を行った場合、

あなたのみなし配当額 = 26万円 (130万円 x 20%)-1万円(100万円/100株)x 20株 = 6万円 

となり、受け取った26万円の内、6万円が配当と「みなされ」ます。みなし配当があったと判断されるのは、

・合併に伴い金銭等が交付される場合(ただし、適格合併による交付は除く)

などに限定されるらしく、税務上の取扱いもそれぞれ異なるようです。

(4) 資本金等の額

上のみなし配当の算式に「資本金等の額」とあります。見過ごしてしまいそうですが、「資本金の額」と「資本金の額」は違います。上記サイトの注記部分(※)に以下の説明があります。

※1株あたりの資本金等の額 = (資本金+資本剰余金) / 発行済株式総数

「資本金+資本剰余金」が「資本金等」にあたります。「資本金等の額」は法人税法上の定義で、法人税法2条及び法人税法施行令8条に定義されているそうです

「資本金+資本剰余金」でも間違いではありませんが(厳密にいうと不正確ですが)、もう少し付け加えると、

資本金等の額 = 資本金 + 資本剰余金(又は資本準備金)+ 税務上の調整

となります。そういうわけで私はいつも「資本金等の額」を

- the sum of share capital and capital surplus adjusted for tax purposes
- share capital and capital surplus 

などと訳しています。以前も書きましたが、資本金は

- share capital
- capital stock
- stated capital

などと言います。どれでも通じます。ちなみに法人税法は
- Corporate Tax Law / Corporate Tax Act、

法人税法施行令は、
- Corporate Tax Law Enforcement Order / Corporate Tax Act Enforcement Order

です。

Sample translationは「正解」ではありません。ここに書かれていることは全て私見であり、誤訳が含まれている可能性があることを予めご了承ください。ご質問、ご意見等ありましたら遠慮なくコメントいただければ幸いです。本シリーズを通じていろいろな方と交流できることを心より願っております。

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