2023-10-21

金融翻訳のこつ 適格合併 No.8

Kei Narujima から移行しました。

本シリーズの目的は、専門的な会計税務の日本語文章を「正確に訳すためのこつやプロセス(リサーチの仕方、単語の選び方等)」を「文書化」し、多くの方とシェアすることです。私は長年、金融翻訳、特に会計税務の翻訳に携わってきました。米国公認会計士(US CPA)試験の全科目に合格しています。ただ、実務には携わってはおりません。また帰国子女でもなく、留学の経験もありません。

初回(第1回)から国税庁の事前照会「英国子会社がオランダ法人と行う合併の取扱いについて」を翻訳しています。
今日は8回目です。


日本語原文

ハ 被合併法人の株主等における被合併法人株式の譲渡損益について
被合併法人の株主等は、原則として、被合併法人株式について譲渡損益を認識しますが(法人税法第61条の2第1項)、被合併法人の株主等に合併法人の株式等以外の資産が交付されなかった合併(金銭等不交付合併)の場合には、被合併法人の株主等は、被合併法人株式の譲渡損益の認識を繰り延べることとされています(法人税法第61条の2第2項)。

Sample translation

C. Capital gains tax on shares in the disappearing company
The shareholders of the disappearing company generally recognize capital gains on the shares of that company (CTL 61-2(1)). However, if no assets other than shares in the surviving company are distributed to these shareholders (i.e., in the case of a merger with no cash distribution), they may defer the recognition of these capital gains (CTL 61-2(2)).

(1) 譲渡損益

譲渡損益は capital gains or losses ですが、つまるところ「譲渡損益課税」についての話ですので、capital gains tax としました。gain は複数形(capital gains tax)です。

(2) 原則として

直訳としては in principle なのでしょうが、なぜかネイティブに generally に訂正されることが多く、最近は、generally を使っています。

(3) 認識

recognize です。ちなみに実現は realize 。実現(realized)されても認識(recognized)されるとは限りません。例えば、

(ii) any net income or gain for such taxable year from all other passive activities (determined after the application of subsection (b)),
shall be treated as a loss which is not from a passive activity.(赤字はナルジマ)

当該処分に係る実現損益の全てを認識する場合、(i) が (ii) を超過する額は、受動的活動から生じる損失としては取り扱われない。
(i) 当該課税年度における、当該活動に係る損失の額(サブセクション(b)を適用して算出)
(ii) 当該課税年度における、その他全ての受動的活動に係る所得又は利益の正味金額(サブセクション(b)を適用して算出)

という感じです。

(4) 合併法人、被合併法人

色々な言い方があります。

合併法人 surviving company, acquiring company, merged company
被合併法人 disappearing company, acquired company, merging company

場合によって使い分けます。重要なのは必ず the をつけることです。例えば、

the surviving company and the disappearing company in an acquisition

となります。

続けます。

日本語原文続き

二 EU域内における合併について
EU域内においては、異なる加盟国の会社を当事会社とする国境を越えた合併を可能とするために、2005年10月に欧州議会及び欧州理事会2005/56EC指令が発行され、加盟国は2007年12月までに国内法化することが義務付けられています。同指令を受けて、英国は2007年に、オランダは2008年に、それぞれこのEC指令に関する国内実施法を制定しています。

Sample translation

Cross-border mergers between limited liability companies in the European Union
Directive 2005/56/EC of the European Parliament and of the Council on cross border mergers of limited liability companies issued in October 2005 requires the EU member states to transpose the directive into their national law by December 2007. The UK implemented the directive into national law in 2007 and the Netherlands in 2008 in accordance with the directive.

(5) 会社

EUのウェブサイト等を見て知りました。ここでいう「会社」は limited liability companies のことだったんですね。リサーチしないと誤訳するところでした。

(6) 国内法化

これもいろいろ調べ、このサイトから言葉を拝借しました。transpose。「置き換える」という意味だそうです。日本の法律でも用語を置き換えることはよくあるので、そういう時に使えそうです。

(5)の会社、(6)の国内法化に限りませんが、海外のこと(法律、規則等)について書いた日本語を訳すときは、必ず原典に当たる必要があります。

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金融翻訳あるある

先日、「逆さ合併」について書く機会がありました。逆さ合併 → reverse merger → 簡単じゃない?と思って調べてみたら、どうも、逆さ合併 = reverse merger ではないことを知りました。reverse merger を調べると、

A reverse takeover (RTO) is a type of merger that private companies engage in to become publicly traded without resorting to an initial public offering (IPO). Initially, the private company buys enough shares to control a publicly traded company. The private company's shareholder then exchanges its shares in the private company for shares in the public company. At this point, the private company has effectively become a publicly traded company. An RTO is also known as a reverse merger or a reverse IPO.(赤字はナルジマ)

ざっくり言うと「非上場会社が上場会社を買収して上場企業になること」です。

でも、日本語の「逆さ合併」は、「事業規模の小さな会社を存続会社とし、事業規模の大きな会社を消滅会社とする合併のこと」で、上場非上場は関係ありません。

つまり、逆さ合併をそのまま reverse merger と訳すと誤解を生む場合があるということ。誤訳と言い切れないのは、消滅会社が非上場企業で、存続会社が上場企業の場合は、reverse merger でいいから。逆さ合併 > reverse merger というイメージでしょうか。

専門用語(上の例だと「逆さ合併」)の英訳(「reverse merger」)をネット上で見つけても、使う前に必ず、英語圏でどう使われているかググって確認してから使いましょう!ということです。でないと痛い目を見ます(笑)。

まだまだ続きます。

Sample translationは「正解」ではありません。ここに書かれていることは全て私見であり、誤訳が含まれている可能性があることを予めご了承ください。ご質問、ご意見等ありましたら遠慮なくコメントいただければ幸いです。本シリーズを通じていろいろな方と交流できることを心より願っております。

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