2023-10-17

金融翻訳のこつ 適格合併 No.1

KeiNarujima から移行しました。

本シリーズの目的は、専門的な会計税務の日本語文章を「正確に訳すためのこつやプロセス(リサーチの仕方、単語の選び方等)」を「文書化」し、多くの方とシェアすることです。私は長年、金融翻訳、特に会計税務の翻訳に携わってきました。米国公認会計士(US CPA)試験の全科目に合格しています。ただ、実務には携わってはおりません。また帰国子女でもなく、留学の経験もありません。

今回から国税庁の事前照会「英国子会社がオランダ法人と行う合併の取扱いについて」を翻訳しています。


日本語原文

英国子会社がオランダ法人と行う合併の取扱いについて
 
 当社(以下「A社」といいます。)は、英国法人B社の発行済株式の全てを保有しており、B社は、欧州における販売拠点として傘下に販売子会社を有しています。
 英国は、2019年3月29日に欧州連合(EU)からの離脱(いわゆる「Brexit」)を予定しているため、A社はB社の現在の事業をオランダに移転することを予定しています。
 このB社の事業の移転は、A社がオランダに新たに設立した100%子法人であるC社がB社を吸収合併することにより行います(以下「本件合併」といいます。)。
 この場合、本件合併は、適格合併(法人税法第2条第12号の8)に該当するため、A社において配当等の額とみなす金額(以下「みなし配当の金額」といいます。)は生じず(法人税法第24条第1項第1号)、また、金銭等不交付合併(法人税法第61条の2第2項)に該当するため、A社においてB社株式の譲渡損益は繰り延べられると考えてよいでしょうか。

(続く)

先ず、冒頭部分からです。

日本語原文再掲

英国子会社がオランダ法人と行う合併取扱いについて
当社(以下「A社」といいます。)は、英国法人B社発行済株式の全てを保有しており、B社は、欧州における販売拠点として傘下に販売子会社を有しています。

Sample translation

Tax treatment of a merger of a UK subsidiary into a Dutch subsidiary
A Japanese company owns all the outstanding shares of a UK company. The UK subsidiary, as the sales hub in Europe, has several sales subsidiaries in other European countries.  

以下、冒頭から傍線部分についてお話していきます。

英国子会社がオランダ法人と行う合併取扱いについて
Tax treatment of a merger of a UK subsidiary into a Dutch subsidiary

(1) 合併

名詞(merger)で使われることが多いですが動詞(merge)が便利です。例えば、「A社とB社が合併した」は、

There was a merger between Company A and Company B.
A merger was executed between Company A and Company B.
と書くより、どっちがどっちを合併したかをきっちり調べて、

Company A merged into Company B.(A社はB社に合併された。)
と書いた方が分かりやすいです。 

(2) 取扱い

会計上の取扱い、税務上の取扱い等の文脈で使われます。「treatment」というのが一般的です。会計上の取扱いなら「accounting treatment」又は「the treatment of ~ for accounting purposes」と言ったりします。税務上の取扱いなら、「tax treatment」又は「the treatment of ~ for tax purposes」となります。

次の文です。
当社(以下「A社」といいます。)は、英国法人B社発行済株式の全てを保有しており、B社は、欧州における販売拠点として傘下に販売子会社を有しています。
A Japanese company owns all the outstanding shares of a UK company. The UK subsidiary, as the sales hub in Europe, has several sales subsidiaries in other European countries

(3) A社、B社

どうしても必要な場合を除き、A社やB社を「Company A」や「Company B」とはしません。親会社なら「parent company」、子会社なら「subsidiary」とした方が分かりやすいからです。というわけで、「Company A」や「Company B」と訳す必要が出てくるまでは、「Japanese (parent) company」、「UK subsidiary」で訳を進めます。

(4) 発行済株式 

日本語の定義を調べると、大概、「自己株式を除く」と書かれています。株式関連の言葉をざっくり説明すると以下のようになります。

authorized shares > issued shares > outstanding shares

  授権株式  > 発行済株式 > 発行済株式

「authorized shares」は授権株式で、「会社定款に記載された、会社が発行することのできる株式の総数(以下省略)」のこと。「issued shares」と「outstanding shares」の違いはざっくり以下の通りです。 


「issued shares」 - 「treasury shares」 = 「outstanding shares」
 「発行済株式」- 「自己株式」  = 「発行済株式(自己株式を除く)」

発行済株式が「issued shares」と「outstanding shares」のどちらを意味するかは該当する条文を読んで確認する必要があります。通常「発行済株式」には自己株式は含まれないことが多いのですが、時々「発行済株式(自己株式を除く)」という注がわざわざついているときがあります。この場合は、発行済株式に自己株式が含まれていることになります。


発行済株式については日向清人の英語雑記帳(4)」にも書かれています。ご興味のある方は是非読んでみてください。

続きは次のポストに掲載します。

Sample translationは「正解」ではありません。ここに書かれていることは全て私見であり、誤訳が含まれている可能性があることを予めご了承ください。ご質問、ご意見等ありましたら遠慮なくコメントいただければ幸いです。本シリーズを通じていろいろな方と交流できることを心より願っております。

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