2023-10-21

金融翻訳のこつ 適格合併 No.10

Kei Narujima から移行しました。

本シリーズの目的は、専門的な会計税務の日本語文章を「正確に訳すためのこつやプロセス(リサーチの仕方、単語の選び方等)」を「文書化」し、多くの方とシェアすることです。私は長年、金融翻訳、特に会計税務の翻訳に携わってきました。米国公認会計士(US CPA)試験の全科目に合格しています。ただ、実務には携わってはおりません。また帰国子女でもなく、留学の経験もありません。


初回(第1回)から国税庁の事前照会「英国子会社がオランダ法人と行う合併の取扱いについて」を翻訳しています。
今日は10回目です。

日本語原文

(3) 異なる国に所在する法人間で行われる合併の取扱い
 上記(2)のとおり、外国法令を準拠法として行われる法律行為が法人税法上の合併に該当するか否かは、その法律行為が我が国の会社法上の合併に相当するものと認められるか否かにより判断することになると考えられます。
 したがって、異なる国に所在する法人間で行われる法律行為であっても、その法的効果が我が国の会社法上の合併の本質的要素(①消滅会社の権利義務の全部が存続会社に包括承継されること及び②消滅会社は清算手続を経ることなく自動的に解散して消滅すること)を具備し、我が国の会社法上の合併に相当するものと認められる場合には、法人税法上の合併に該当するものとして取り扱うのが相当であり、異なる国に所在する法人間で行われる合併であることを理由に、法人税法上の合併に該当しないということとはならないものと考えられます。

Sample translation

(3) Treatment of cross-border mergers 
As stated in (2), the determination of whether or not a legal act governed by a foreign law qualifies as a merger under CTL is made based on whether the act is a merger under the Act. Therefore, even if the legal act is a cross-border transaction, if the following conditions are met, the act should be treated as a merger under CTL and it is inappropriate to treat otherwise just because the act is a cross-border transaction:

(1) 異なる国に所在する法人間

色々な言い方があるとは思いますが、シンプルに「cross-border」を使いました。「国境を超える」と訳されることが多いようですが、「2国間」、「異なる国の間」ということを表すのに便利な言葉です。

(2) 消滅する

disappear ではなく、cease to exist という言い方をします。cease to ~ というのは便利で、何かを止めるという意味より、以下のような「~しなくなる」という意味で使うと便利です。

有効ではなくなる cease to be effective
機能しなくなる cease to function

(3) 法人税法上の合併に該当しないということとはならない - otherwise

前段に「法人税法上の合併に該当するものとして取り扱うのが相当」とありますので、「そうでないものとして取り扱うこととはならない」と言い換え、otherwise を使いました。日本語通りに書くよりシンプルかつ readable です。

otherwise にはもう一つ、「そうである場合を除き」という意味もあり、契約書によく出てきます。

会社が書面により明示的に合意する場合を除き、これらの条件は全ての契約に適用される。
Unless otherwise expressly agreed by the company in writing, these conditions shall apply to all contracts.

続けます。

日本語原文続き

(4) 本件合併の取扱い
 本件合併は、欧州議会及び欧州理事会2005/56EC指令に関する英国及びオランダの各国内実施法を準拠法として行われるものであり、①被合併企業から合併企業へのすべての資産及び負債の自動的譲渡(包括承継)、②被合併企業の清算なしの解散(自動消滅)という法的効果が生じます。
 したがって、本件合併は、我が国の会社法上の合併の本質的要素を具備すると認められますので、我が国の法人税法上の合併に該当するものとして取り扱うのが相当であると考えられます。
 そして、別紙2のとおり、①本件合併前に被合併法人B社と合併法人C社との間に同一の者A社による完全支配関係があり、かつ、本件合併後にA社とC社との間にA社による完全支配関係が継続することが見込まれており(法人税法施行令第4条の3第2項第2号)、また、②本件合併に伴い、被合併法人B社の株主(A社)には合併法人株式(C社株式)以外の資産は交付されない予定であることからすれば、本件合併は、法人税法第2条第12号の8に掲げる適格合併に該当し、A社においてみなし配当の金額は生じないものと考えます。また、本件合併は上記②のとおり金銭等不交付合併に該当するため、A社においてB社株式の譲渡損益は繰り延べられるものと考えます。
なお、上記のように取り扱ったとしても、繰り延べられたB社株式の譲渡損益に対する我が国の課税の機会が失われるという課税上の弊害は生じないものと考えます。

Sample translation

(4) Treatment of this Merger
The Merger is governed by the relevant local UK and Dutch regulations implementing the Directive 2005/56/EC and meets both the conditions (i) and (ii) in order for it to qualify as a merger under the Act and therefore CTL. Also, the "Facts and assumptions" suggests that the Merger fulfills the two requirements for a qualified merger described in A "Tax-qualified merger" of (1) "Relevant laws."

Therefore, the Merger is tax-qualified as defined in CTL 2(xii-viii)イ and as such, capital gains tax on shares in the disappearing company will be deferred. It should be noted that these gains will only be deferred, not be forgiven. 

(4) 無駄は省く

日本語と比べて英語が非常に短いです。普通、日本語を英語にする場合、1.5倍から2倍の長さになると言われています。ただ、日本語はなぜか繰り返しの多い言語でもあります。繰り返し部分をそのまま英訳するとかえって分かりにくいため、ここでは 「(1) 関係法令『イ 適格合併について』」に記載されている要件を参照させるために「the two requirements for a qualified merger described in A "Tax-qualified merger" of (1) "Relevant laws.」と書き、要件そのものは省略しました。

(5) どちらの目線で書くか

最後の文は突然「お国」目線で書かれていますので、この英訳を誰が使うかによって訳を変える必要があります。

政府の役人が使うのであれば、そのまま「Japan will not lose the right to tax these gains because of......」とでも書けばいいのですが、ここまで会社(つまり納税者)の目線で話をしてきているわけですので、「ただし、課税の繰り延べはあくまで繰り延べであり、税が免除されるわけではない」と、納税者目線で書きました

目線がぶれないことの重要性は、多くのライティング本で触れられています。

終わりました。本当はこれまでやった10回分を全て通しての推敲が必要で、実はそれに最も時間がかかります。ただそれはまた別の機会にやりたいと思います。

Sample translationは「正解」ではありません。ここに書かれていることは全て私見であり、誤訳が含まれている可能性があることを予めご了承ください。ご質問、ご意見等ありましたら遠慮なくコメントいただければ幸いです。本シリーズを通じていろいろな方と交流できることを心より願っております。

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