2023-10-20

金融翻訳のこつ 適格合併 No.3

Kei Narujima から移行しました。

本シリーズの目的は、専門的な会計税務の日本語文章を「正確に訳すためのこつやプロセス(リサーチの仕方、単語の選び方等)」を「文書化」し、多くの方とシェアすることです。私は長年、金融翻訳、特に会計税務の翻訳に携わってきました。米国公認会計士(US CPA)試験の全科目に合格しています。ただ、実務には携わってはおりません。また帰国子女でもなく、留学の経験もありません。

初回(第1回)から国税庁の事前照会「英国子会社がオランダ法人と行う合併の取扱いについて」を翻訳しています。今回は3回目です。

日本語原文

 
 当社(以下「A社」といいます。)は、英国法人B社の発行済株式の全てを保有しており、B社は、欧州における販売拠点として傘下に販売子会社を有しています。
 英国は、2019年3月29日に欧州連合(EU)からの離脱(いわゆる「Brexit」)を予定しているため、A社はB社の現在の事業をオランダに移転することを予定しています。
 このB社の事業の移転は、A社がオランダに新たに設立した100%子法人であるC社がB社を吸収合併することにより行います(以下「本件合併」といいます。)。
 この場合、本件合併は、適格合併(法人税法第2条第12号の8)に該当するため、A社において配当等の額とみなす金額(以下「みなし配当の金額」といいます。)は生じず(法人税法第24条第1項第1号)、また、金銭等不交付合併(法人税法第61条の2第2項)に該当するため、A社においてB社株式の譲渡損益は繰り延べられると考えてよいでしょうか。

(続く)

第3回は、最後のパラグラフです

この場合、本件合併は、適格合併法人税法第2条第12号の8)に該当するため、A社において配当等の額とみなす金額(以下「みなし配当の金額」といいます。)は生じず(法人税法第24条第1項第1号)、また、金銭等不交付合併(法人税法第61条の2第2項)に該当するため、A社においてB社株式譲渡損益は繰り延べられると考えてよいでしょうか。


Sample translation

The Japanese company understands that the Merger will not result in a deemed dividend as defined in Japan's corporate tax law ("CTL") 24(1)(i) to the company as it is tax-qualified under CTL 2(xii-viii) and therefore tax-free. The company also believes that capital gains tax on shares in the UK subsidiary will be deferred as the Merger falls under the definition of a "merger without cash distribution under CTL 61-2(2)." Is the company's understanding correct?  

文が長いので切りました。先ずは前半部分です。


この場合、本件合併は、適格合併法人税法第2条第12号の8)に該当するため、A社において配当等の額とみなす金額(以下「みなし配当の金額」といいます。)は生じず(法人税法第24条第1項第1号)、

The Japanese company understands that the Merger will not result in a deemed dividend as defined in Japan's corporate tax law ("CTL") 24(1)(i) to the company as it is tax-qualified under CTL 2(xii-viii) and therefore tax-free. 

(1) 適格合併

「税務上適格」という意味で「tax-qualified」、「qualified for tax purposes」などと言います。取引に伴う資産負債等の移転が簿価で行われ、それらの資産負債に係る課税が繰り延べになることを意味します。税務上適格と認められるには、一定の要件を満たさなければならない例外的な取り扱いです。「tax-qualified」だけでも十分ですが、適格合併なので「課税はない」ことを強調するため、「tax-free」を追記しました。

ちなみに、qualified と言う言葉は、監査では、「qualified opinion(限定意見)」という用語で使われます。「虚偽記載が、個別にまたは集計して、重要ではあるが広く蔓延しているものではないと判断した場合、表明される意見」だそうです。


(2) 法人税法第2条第12号の8、法人税法第24条第1項第1号

法人税法は「Corporate Tax Law」などといい、CTL と略されることが多いです。ちなみに法令条文の「条」は「article」、項は「paragraph」、号は「item」と私は訳していますが、他にも訳し方はあります。重要なことは一度決めたらそのルールを最後まで通すことです。整合性は非常に重要です。普通は上記のように24(1)(i)としますが、非常に硬い文書(memorandum等)の場合は、脚注に出して、「CTL Article 24, Paragraph 1, Item 1」と書いたりします。

日本語原文再掲
この場合、本件合併は、適格合併法人税法第2条第12号の8)に該当するため、A社において配当等の額とみなす金額(以下「みなし配当の金額」といいます。)は生じず(法人税法第24条第1項第1号)、

Sample translation

The Japanese company understands that the Merger will not result in a deemed dividend as defined in Japan's corporate tax law ("CTL") 24(1)(i) to the company as it is tax-qualified under CTL 2(xii-viii) and therefore tax-free. 

(3) みなし配当の金額 みなす

「みなし配当」は「deemed dividend」と言います。みなすは「deem」です。「regard」、「consider」等は使いません。

(4) みなし配当の金額 金額

金額とあるので「the amount of deemed dividends/a deemed dividends」としてしまいたくなりますが「金額」は訳出しません。「資本金の額又は出資金の額」も同様で、
〇 share capital or capital contribution で足りることがほとんどです。
✖ the amount of share capital or capital contribution とはしません。

ちなみに「資本金」ですが、

share capital(英国人が好む)
capital stock(米国人が好む)
stated capital (米国人が好む)
などがあります。ほぼ、interchangeableです。

(5) みなし配当の金額 分配されるの?

「配当」とあるので、何かしらの金額が配当される(分配される)と考えて、a deemed dividend is distributedとしたくなるところですが、そうではありません。何も分配されないのに「配当とみなされる」のがみなし配当です。ここでは「result in」を使いました。

(6) 該当する fall under the definition of ~

Computer hardware is considered to fall under the definition of machinery. 
コンピューターは機器に該当する。
という風に使います。ただ、もっと簡単に、
... as the Merger is considered a "merger without cash distribution...." 
とも言えます。

(7) 金銭等不交付合併

金銭の交付にも「distribute」を使います。「distribute」はもちろん配当にも使えます(例:distribute a dividend)。

(8) ~の株式

the shares of the company
shares in the company
などの言い方があります。of、inのどちらを使うかは、文脈(限定されているかいないか、直前に、of  や in が使われていないか等)で決めます。どちらもよく使います。

(9) 譲渡損益

直訳だと、gains or losses on the transfer of ~ ですが、capital gains or losses on (the sale of) shares のほうが分かりやすいと思います。ちなみに譲渡損益課税は、capital gains tax と言います。capital gains tax は、gain ではなく、gains です。

また、gains or losses の後には on や from をよく使います。
株式売却にかかる譲渡益 Capital gains on the sale of shares
という感じです。

豆知識♪
硬い文章を書くときは
〇「is not」、「does not」とし、
✖「isn't」、「doesn't」
のような省略形は使いません

まだまだ続きます。

Sample translationは「正解」ではありません。ここに書かれていることは全て私見であり、誤訳が含まれている可能性があることを予めご了承ください。ご質問、ご意見等ありましたら遠慮なくコメントいただければ幸いです。本シリーズを通じていろいろな方と交流できることを心より願っております。

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